『模倣犯』(宮部みゆき)

模倣犯1 (新潮文庫)

映画を先に見ていたから、犯人がどういう人間でどういう動機で事件を起こしたのか、わかっているつもりで読んでいたけど、実は映画とこの小説は全くの別物だった。


映画を見たのは随分と昔だから、記憶も大分あいまいになっているけど、確か「人間の進化には犯罪の進化が必要」とか何とか、言ってなかったっけ?
だから、どこにもない、誰も考えたことの無い犯罪を、俺がやって見せるのさ・・・という動機の説明。


実際のところ、小説の中でピースこと網川浩二は、そんな台詞を吐くシーンはなかったのだけど、根底にはそういう意識があったんだろうか?
でも、解釈によれば、「退屈しないためのエンターテイメントなんだから、命ぐらい惜しまないでよ。」っていう感じの犯行動機だったのでは。
うーん、私はやっぱり理解できない方の世代だよぉ。
退屈でもいいから、人々が平和で安心して愛し合って生きられる世界の方が、断然いい。



それにしても、本当に感情を揺さぶられる作品だった。ほんの4,5分の電車内での読書でも、スーッと引き込まれて、離れられなくなる。
登場人物と一緒に、怒ったり恐れたり(あんまり、喜んだり笑ったりっていうのは、無かったな。)、これって感動したって言うことなんだろうな。
特に樋口めぐみ(映画には登場しない人物)の登場シーンは、何が起きるか予想が付かなくて、ドキドキしたりイライラしたり、忙しかった。


悲劇の人になってしまった高井和明のことも、いずれ死んで(殺されて?)しまうことを知りながらも、とても応援したし共感した。
その妹、由美子のことは、網川にコロッと騙されて、ヤキモキさせられた。
とにかく、どの登場人物の話も、共感できたりできなかったりはあるけれど、引き込まれるし興味を惹かれて目が離せなかった、と言う感じ。


確かに、この話を完全に映画化しようとしたら、4,5時間は必ずかかるものね。
だから端折るのはしょうがないとしても、でも、違う話になってるんじゃなあ、タイトルだけでも変えた方が良かったんじゃないのかしら?


映画では最後に公園に赤ちゃんが置き去りにされていて、有馬のおじいちゃんがその子を抱き上げるシーンがあった気がするけど、これも映画のオリジナルストーリーだったのね。
一体何を仄めかそうとしていたのか、鞠子とピースは実は恋人同士だったの?とか、いろいろ想像したけど分からず。
本を読んで、ますますあのシーンの意図が分からなくなった。


私の周りであの映画を見た人たちの評も、かなり手厳しいものがあるけど、ある意味仕方がないかもね。
本当に、別物。
あの映画を見て、小説を読むのを躊躇っている人がいるなら、それは読んだ方が絶対いい。
ストーリーテラー宮部みゆきの力を無条件に信じて先ずは1巻を手に取ればいい。
絶対とまらなくなるから。
それで、読み終わったとき、「ああ、読んで良かったなぁ。」って思うから。
掛け値なしに面白かった。最高。